「はじめての別れ」 新疆ウイグル自治区の今 (東京国際映画祭)
こんにちは。
映画の感想なんて観た後すぐ書くべきなのですが、なんだかんだで忙しく、時間がとれず、今ごろ書いています(^^;)
ご紹介する映画は「はじめての別れ」。
中国の新疆ウイグル自治区に住む子どもたちが主人公です。
監督は、新疆ウイグル地区出身のリナ・ワンという若い女性で、この作品が初監督作品で、初監督作品にして東京国際映画祭の「アジアの未来」部門に出品されるという、才気溢れる方です。
実はこの映画は中国では上映禁止です。
ですので東京国際映画祭が世界初公開になりました。
中国で上映禁止になるというので、今の政権に対する批判色の強いものかと思いきや、全くそんなことはなく、とても静かで穏やかなドキュメンタリータッチの映画でした。
ストーリーは、タイトル通り、主人公のアイサという、おそらく10歳くらいの少年が、様々な別れを経験する、というものです。
母親との別れ
アイサには聾唖の母がいます。脳にもマヒがあり、寝たきりではありませんが、ほぼすべての事は、誰かの介助なしにはできません。
足腰が弱っているわけではないので、常に見ておかないとふらっと家から出て行ってしまったりもします。
発作を起こして暴れたり叫んだりすることもあるようです。
アイサは、学校から帰ると、父の仕事(ヤギの放牧や農作業)を手伝いながら、この母親の世話を献身的にします。彼にとってはかけがえのない、大切なお母さんなのです。
しかし、父親は(見た目にはかなり老けていました)妻の介護に疲れを感じるようになり、施設に預けようか悩んでいます。
ウイグルの家庭では親族の絆が深く、何かあると集まって話し合いをするようでした。強権的に誰かが決めるのではなく、みんなで穏やかに話し合い、相談しあって決めていく様でした。
父親の提案は親族に受け入れられ、やがて母親は施設に預けられます。
アイサは、父が自分や兄に相談なく母親を施設に預けたことにショックを受け、悲しみました。「お母さんの世話をずっとしたかった」と父親に訴えますが、父親は疲れ果てていてアイサの希望を受け入れることが出来ず、結局母親とは別れて住むことになりました。
兄との別れ
アイサには年の離れた兄がいます。
真面目で勉強熱心な青年らしく、大学に入学するため、都会に出て行くことになりました。
私は中国の農村部の人々は貧困にあえいでいて、子どもを大学に行かせることは大変だと思っていたのですが、この映画で見る限り、そういうことでもないようです。
貧しいとは言っても食べるものに困るようなことはなく、質素でつつましいながらも豊かな生活をしているようでした。
監督が言っていましたが、農村部の子どもたちは皆、ある年齢になると、都会に出るか、故郷にとどまるかで悩むそうです。
しばらくすると都会に出て行った兄から手紙が届きます。
都会はすごい、出てきてよかったという、若者らしい素直な内容の手紙でした。
幼なじみの少女との別れ
アイサには同い年のカリビヌールという仲良しの女の子がいます。
遊ぶときはいつもカリビヌールの弟を入れた3人で野山を駆け回っていました。
カリビヌールには教育熱心なお母さんがいて、彼女は、娘の学校での中国語の成績が振るわないのを心配しています。
このくだりが中国での上映が禁止になった理由だと思われます。
ウイグル地区の人々は、普段はウイグル語で会話をしています。
ですが学校では中国語の授業があり、大学への進学や都会での就職を望むのなら中国語は必須です。
この、言語の問題はとてもデリケートなものらしく、上映後のインタビューでもそこに突っ込んだ質問がありましたが、監督もプロデューサーも、「日本にも方言と標準語があるのと同じようなことで、それだけのことです」と答えていました。
でも、ウイグル語は北京語の方言ではありませんよね。
おそらく、監督もプロデューサーもあまりこの問題には触れられたくないのだろうなと推測しました。
でも、静かな中に、彼らの言いたいことがとても深く染み込んでいて、それは観ている方にまっすぐに向かってきます。
農村でのつつましい生活に未来を見いだせないカリビヌールの母親は、子どもたちの将来のために、教育に力を注ぎたいと考えています。
そのためには、まず、中国語の教育に力を入れている地区へ移動しなければなりません。
結局、カリビヌールの一家は、中国語の教育のために、アイサたちのいる田舎から出て行くことになりました。
こうして、アイサは仲良しの友達とも別れることになります。
数々の別れを通してアイサは強くなっていくことでしょう。
この素直で優しい少年に明るい未来が待っていますようにと祈らずにはいられない作品でした。
この映画でまず驚くのは、子どもたちの演技の自然さです。
演技している感じが全くしないのです。
監督は、子どもたちの自然な演技を引き出すために、自らを監督ではなく、いっしょにいる人、という雰囲気でそばにいて、「スタート!」や「カット!」などの声掛けもしなかったそうです。
この映画の製作に2年もかかったのはそのせいかもしれません。
子どもたち以外の大人の役も、全て現地の人にやってもらったそうです。
3人の子どもたちの愛らしさと、四季それぞれの新疆ウイグル地方の素朴で美しい自然には、この地区出身の監督の、故郷への愛が溢れているように感じました。
私は東京国際映画祭で観た3本の映画の中で、この「はじめての別れ」が一番好きです。観れるものならもう一度観たいのですが、今後の上映予定はないようです。
鑑賞する機会があって、ほんとうに良かったと思いました。
なお、この映画を観た後の夫の感想
「これはひどい。映画じゃない。ストーリーもあるのだかないのだかわからないシロモノだ」
などと上から目線で言っておりました。何様なんでしょう┐(´∀`)┌
でも、「はじめての別れ」は、アジアの未来部門で作品賞に選ばれました!
映画をよく観ている割に、見る目が全くない夫です(笑)
感性がないのでしょう。こういう人はどんなにたくさんの映画を観てもダメだと思います。
読んでいただいてありがとうございました。