うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間
こんにちは。
先崎学さんの「うつ病九段」という本を紹介します。
何かの書評欄で見つけて読みました。
私は将棋に疎く、先崎学さんのことも全く存じ上げていませんでしたが、彼が重いうつ病にかかりそこから回復する過程が実に分かりやすく書かれていて、本当に勉強になりました。
先崎さんのうつ病はかなり重く、その症状は実に恐ろしいものでした。
何をしても頭が重く疲れが取れず、夜眠れなくなり朝起きられなくなり、ついには家から1歩も出ることが出来なくなってしまう。
何をするにも決断が出来ず、のどが渇いていてもキッチンへ行って水を飲むことすら辛くなる。
もうソファーでじっと横になる事しかできない。
そして頭の中では高いところから飛び降りるとか電車に飛び込むなどの「死のイメージ」が駆け巡るようになる。
「つまるところ、うつ病とは死にたがる病気であるという、まさにその通りであった」
本当に恐ろしい病気だと思いました。
しかも、原因がよくわからないのです。
どうやら過労が引き金になっているようですが。
疲労困憊しているのにそれに気づかず、そのまま動き続けていると、ある日突然体と心がストライキを始める、というようなイメージを持ちました。
脳が生きることを拒否している状態というか…
誰でもかかる可能性があります。
うつ病については、なんとなく知っていて、わかっていたつもりでしたが、この本を読んで、私は何もわかっていなかったのだとがく然としました。
過労死が世間で話題になると、「死ななくてもいいのに」などと思ったこともありましたが、働き過ぎて、うつ病になり、「死ぬしかない」ところまで追い込まれてしまうのですね。
筆者のお兄様は優秀な精神科医で、様々な形でうつ病になった弟を支え続けました。
そういう意味で筆者は大変恵まれた環境にいたわけですが、それでも病気を治すのは本人にしかできない、本人の血のにじむような努力なくしては治らないようです。
治る過程で何度も後戻りするので、その辛さに耐えて耐えて耐えぬいてようやく地上に顔を出すことができる、という感じです。
この、完治を目指してうつ病と懸命に戦うところでは、私も思わず肩に力が入っていました。引き込まれて応援したくなるような文章なのです。
精神科医であるお兄様の「究極的にいえば、精神科医というのは患者を自殺させないというためだけにいるんだ」という言葉に、精神科の医師の苦悩を感じました。大変な仕事だと改めて思いました。
この本を読んでいるうちに、昔の事を思い出しました。
30年近く前ですが、ある英会話のサークルに参加したことがありました。
オーストラリア人の先生を雇って、5、6人で毎週集まって英会話の勉強をするサークルです。
種々雑多なメンバーの集まりで、けっこう面白かったです。
そのサークルの主催者の女性と仲良くなったのですが、先生がオーストラリアに帰国してサークルも終了となり、私も夫の海外勤務に付いていくことになり、日本を離れました。
それで彼女との関係も終わったのですが、海外に行って少し経った頃、手紙が届いたのです。
中を見て驚きました。字が、ミミズが這ったような奇妙な筆跡で、ちょっと普通ではない雰囲気だったからです。
読んでみると彼女は精神科に入院中で、やっとのことでこの手紙を書いているとのことでした。すぐに返事を出しましたが、それっきり、彼女からの返事はありません。
メールもラインもなかった頃で、もう彼女の連絡先もわからなくなってしまいました。
今、どうしているかしら。元気でやっているかな。
あの手紙、大変な思いで1字1字書いてくれたのだなと今さらながら思います。うつ病だったかどうかはわからりませんが、苦しんでいたのだろうなと。
この本は、うつ病の辛さをこれでもかというほど赤裸々に綴っています。
うつ病を理解する上で、私のような素人には最適な本だと思いました。
読んでいただいてありがとうございました。